控除制度見直しの背景
政府・与党は、所得税が課され始める水準として設定される「年収の壁」を再定義するため、基礎控除を物価変動に対応させる新方式の導入を検討している。急速な物価上昇が家計負担を押し上げる中、非課税枠の固定化が実情に合わなくなっている点が議論の出発点となった。現在の基準は160万円に引き上げられており、可処分所得の確保という政策的課題が浮上している。
CPI連動方式の導入に向けた動き
新たに提案されているのは、2年ごとに消費者物価指数の変化を基礎控除へ反映させる方式である。毎年の改定は企業側の業務に大きな負荷をもたらすため、定期的でありながら過度に細かくない調整が選択された。物価が上昇する局面では、控除額の引き上げによって負担増を緩和する狙いがある。制度が実行されれば、税負担水準を社会経済の変動に合わせて調整する仕組みが整うことになる。
他党との協議と控除範囲の拡大
国民民主党は「年収の壁」を178万円に設定する案を継続して主張しており、基礎控除だけの調整では到達が難しい点が課題として残る。このため給与所得控除の最低額引き上げも検討されており、7年度の税制改正で採用された段階的上乗せ制度との整合性が問われる。与党と国民民主党の折衝が最終案の成否を左右する構図となっている。
住宅ローン減税の適用範囲を広げる方針
税制全体の再設計と並行して、住宅ローン減税の存続と機能拡大も大きなテーマとなっている。制度は年末で期限を迎えるため、延長とともに中古物件を対象とする限度額を4,500万円まで拡大する方向で調整が進んでいる。都市部の住宅価格高騰を背景に、より高額帯の中古物件にも対応させる意図がある。さらに、減税期間を13年間へと延ばし、新築との格差を縮める方針も検討されている。
税制全体の再構築への課題
基礎控除の物価連動化と給与所得控除の見直しは、税収の減少が避けられないため、財源確保の方法が最終的な論点となる。制度変更は令和8年度税制改正大綱に盛り込まれる見通しであり、家計支援と財政運営の均衡が求められる。住宅市場の活性化策と合わせ、多層的な制度調整が今後の焦点となる。
