政府、コメ政策の軸転換を検討 市場原理重視の姿勢強まる

井村 智規
经过

新農相が「増産一辺倒」に歯止め

鈴木憲和農林水産相は22日の記者会見で、コメの増産方針について「需要に応じた生産が何よりも重要」と述べ、前政権の拡大路線を見直す方針を示した。生産現場では供給過剰への懸念が広がり、農家の経営を圧迫する可能性が指摘されている。
昨夏の米価高騰を受けて政府が備蓄米を市場放出してきたが、鈴木氏は「量が足りなければ出すが、足りていれば出さない」と述べ、柔軟な対応を取る姿勢を示した。

市場に委ねる価格決定を明言

鈴木氏は、コメ価格への政府関与を否定し、「価格はマーケットが決める」と強調した。
これは、石破茂前首相や小泉進次郎前農相が主導した価格誘導型の政策と一線を画す発言である。石破氏が目安として示した「5キロ3,000円台」という発言にも触れず、政府が価格帯を指示する方針を取らないことを明確にした。

価格抑制策から需給調整へ

政府は「令和の米騒動」を受け、備蓄米を活用した供給安定策を実施してきたが、結果的に一部では市場価格の混乱を招いた。
鈴木氏はこの点を踏まえ、需給バランスに基づく柔軟な対応を重視すると表明した。市場の自律的な調整を妨げる施策は抑え、農家が自らの判断で生産を最適化できる環境を整えることが狙いとみられる。

「おこめ券」など消費者支援も検討

一方、物価高が続く中で、政府は消費者支援の一環として「おこめ券」などの補助制度の導入を検討している。
鈴木氏は「生産者と消費者の双方に寄り添う政策」を掲げ、家計負担を軽減しながら、国内農業の持続性を確保する方向を示した。現場の声を政策形成に反映させる姿勢が明確になっている。

中長期的な輸出拡大を見据えた農政へ

短期的な増産には慎重姿勢を見せる一方で、鈴木氏は「中長期的には輸出拡大を通じて生産力を強化する」と述べた。国際市場での競争力を高めるため、品質向上や販路開拓を進める方針も示されている。政府は今後、価格誘導ではなく、市場の信号を尊重した構造的改革に舵を切る見通しだ。

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