米外交に新たな脅威 AI音声による偽装通信が発覚

井村 智規
经过

シグナル経由で接触 AI模倣音声の悪用が判明

2025年6月中旬、メッセージアプリ「シグナル」を通じ、AIで再現されたルビオ国務長官の声を使った音声メッセージが他国の政府関係者らに送信されていたことがわかった。偽アカウントを利用して外相3人および複数の米当局者に接触を図っており、米政府はこれを「サイバー攻撃の一形態」と見て、調査を進めている。

音声だけでなく文章でも偽装が進行

外交公電によると、なりすまし犯はAIで生成したテキストメッセージと音声を併用していた。内容には応答を促す記述が含まれ、相手の信頼を得てさらなる対話を引き出す狙いがあったとされる。このような手法は、ソーシャル・エンジニアリングの進化形とされ、情報収集手段として極めて危険視されている。

調査中のため詳細は非公開 米当局が警戒強化

国務省のブルース報道官は記者会見で事実関係を認めつつも、「調査の妨げになる」として、音声の具体的な内容や標的の国名などは公表しなかった。ただし、情報保護を最優先とし、再発防止策の徹底に向けた取り組みが進行中であることを明らかにした。

背景に過去のAI攻撃事例 類似パターンに注目

今回の事件は孤立したものではなく、今年5月に報告されたワイルズ大統領首席補佐官のなりすまし音声通話や、4月に発生したロシア系ハッカーによるフィッシング攻撃と類似点が多い。いずれもAIを用いて信頼関係を偽装し、ターゲットから情報を引き出すことが目的だった。

サイバー安全保障の再構築が急務に

国際外交におけるAI技術の悪用事例を受けて、従来の情報セキュリティ枠組みが機能不全に陥るリスクが浮き彫りとなった。FBIはAIによるなりすましへの警戒を強化しており、今回の件が各国における新たなセキュリティ指針策定の引き金となる可能性がある。音声や顔といった従来の信頼指標も、今後再定義される必要が出てきた。

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