初のAI関連法成立で日本の制度整備が前進
日本政府は5月28日、AIに特化した新たな法律「人工知能関連技術の研究開発および活用の推進に関する法律」を参議院本会議で可決・成立させた。国会で与野党の賛成多数により承認されたこの新法は、AIの悪用に対する国の対応強化と、事業者による協力の明文化を主な柱としている。国民の懸念に配慮しつつ、AI活用の促進と研究開発の支援を打ち出す内容となった。
国による調査と注意喚起体制の整備が柱に
新法の最大の特徴は、AIの悪用リスクに関する国の調査責任と、事業者がその調査に応じる義務を明文化した点である。生成AIによるディープフェイクや、個人情報の流出、著作権侵害といった不正利用のリスクに対して、国が事例を収集・分析し、社会に向けて注意を呼びかける枠組みが整えられた。罰則は設けられていないが、情報公開による社会的抑止効果が期待されている。
欧州連合に続く動き 技術開発との両立目指す姿勢
AIの法規制については、2024年にEUが世界初の包括的なAI規制法を施行しており、日本はこの流れを踏まえて制度整備を急いだ形だ。ただし、日本の新法ではあえて規制色を強めず、AI技術の研究と事業展開を阻害しないバランスを取った。国が支援的立場を取ることで、国内事業者の開発活動を後押しし、国際競争力の強化を図る狙いもにじむ。
海外事業者への実効性には課題が残る指摘も
一方で、今回の新法には海外のAI事業者に対する監視や調査権限が含まれておらず、実効性に疑問の声もある。国境を越えて提供されるAIサービスに対して、日本の法制度がどこまで機能するかは依然として不透明だ。専門家の間では、今後の国際協力や法的枠組みの連携が課題になるとの見方も出ている。
社会的信頼の確保と技術革新の共存が鍵に
新法の成立は、AI技術に対する社会的信頼の確保と、イノベーション促進を両立させる第一歩といえる。ディープフェイクなど先端技術への不安が高まる中で、国がリスク管理に積極的な姿勢を示す意義は大きい。今後は、具体的な調査実施体制や情報公開のあり方、さらには国際的枠組みとの整合性が問われることになるだろう。