遺族と被告が法廷で向き合う場面
奈良市で2022年に発生した安倍晋三元首相銃撃事件の公判で、山上徹也被告の裁判員裁判第13回公判が12月3日に開かれた。遺族側の昭恵氏が初めて法廷に出席し、検察官席の背後に着席した。黒色のジャケット姿で入廷し、証言台越しに被告と対面する形となった。出廷は数日前に決まったとされ、法廷全体に緊張が漂った。昭恵氏は正面を向き続け、質疑の間も静かに傍聴した。
被告の応答と謝罪の有無
この日の審理では4回目の被告人質問が行われた。被告は証言台へ移動する際、昭恵氏の方向へ頭を下げたものの、発言の場面では終始うつむいたままだった。検察側が遺族に対して謝意を示した事実があるかを確認すると、被告は「ない」と答えた。裁判官が遺族への説明予定について問いただした際、被告は翌日の公判で伝える意向があったと述べたが、具体的な言葉は示さなかった。
動機の説明と恨みの対象
質疑では、旧統一教会への母親の高額献金や家庭の困窮、兄の死が長年の恨みを形成したとの説明が繰り返された。教団幹部を襲撃する計画を抱いたものの、来日が見通せず、海外での実行は費用面から難しいと判断したと述べた。そのため、教団と関係があると受け止めた安倍氏を狙う選択に至ったと説明した。被告は安倍氏が「著名な政治家であり、教団への影響力が大きいと考えた」と語り、個人への敵意よりも教団に打撃を与える意図が中心だったと主張した。
計画が変化した時期と行動
被告は事件の数日前に標的を安倍氏へ明確に切り替えたと述べた。韓国での襲撃案も一時検討したが、手製銃の持ち込みの困難さや滞在費の問題から実現可能性が低いと判断した。手製銃を製作したことについては、長期間費やした時間と費用が無駄になると感じたと説明した。計画が複数の段階を経て変更され、最終的に奈良市での襲撃に至った経緯を述べた。
専門家証言が示した家庭環境
2日と3日の公判では宗教社会学者の桜井義秀氏の証言が取り上げられた。桜井氏は事件後に大阪拘置所で山上被告と面会した経験から、母親の献金問題によって家庭が長く不安定であったと説明した。幼少期から被告が「地獄のよう」と感じる生活環境に置かれた可能性があり、宗教的虐待に当たる状況が存在したと指摘した。証言は事件の背景にある生育環境の重さを補足する役割を果たした。
