台湾有事「存立危機事態」発言の波紋 政府・野党で評価分かれる

井村 智規
经过

首相「撤回せず」、最悪の事態を想定と説明

高市早苗首相は11月10日、台湾有事に関する国会答弁について「撤回する考えはない」と述べた。7日の答弁で首相は、台湾周辺での武力行使が「日本の存立を脅かす事態になり得る」と発言。最悪の事態を想定したものと説明し、「政府統一見解として出すつもりはない」とした。首相の発言は日本が集団的自衛権を行使できるかどうかをめぐる核心的論点となっている。

台湾情勢を巡る懸念、中国側の反発強まる

発言を受け、中国の薛剣駐大阪総領事がSNS上で強い言葉を投稿。日本政府は「極めて不適切」として抗議した。中国外務省の林剣報道官は「台湾を中国から切り離そうとする危険な発言に対応した」と主張し、さらに「一部の日本の政治家が混乱をあおっている」と批判。両国の緊張は外交面にも波及している。

安全保障法に基づく論点、専門家が評価

2015年の安全保障関連法では、日本が直接攻撃を受けていなくても、密接な関係にある他国が攻撃され日本の存立が脅かされる場合、「存立危機事態」として自衛隊の出動を認めている。策定に関与した兼原信克元官房副長官補は「台湾封鎖が深刻化すれば該当しうる」とし、首相発言を「踏み込みすぎではない」と評価した。

野党は「戦争リスク」を指摘し追及強化

一方、立憲民主党の大串博志氏は「発言は日本が戦争に踏み込むかどうかの重大な論点だ」と強調。撤回を求め、「政府の統一見解として明確化すべきだ」と迫ったが、首相は拒否した。野党は、発言が外交的緊張を助長するとの懸念を強めている。

米国との同盟と地理的要因が焦点に

台湾海峡を巡る米中対立の中で、日本は日米安保条約に基づく同盟国としての立場が問われている。台湾と日本最西端の与那国島の距離は約110キロ。事態がエスカレートすれば、日本領空・領海が直接影響を受ける可能性もある。首相発言を契機に、台湾有事が日本の防衛政策全体に及ぼす影響が一段と注目されている。

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