地政学の波紋 ホンダ工場停止が示す供給網の脆弱性

笠原 美琴
经过

欧中対立が引き起こした半導体危機

ホンダは10月29日、メキシコ・セラヤ工場の自動車生産を停止した。背景には、オランダ政府が中国系半導体メーカー「ネクスペリア」への監督権を強化したことに対する中国政府の対抗措置がある。中国国内で生産される半導体の輸出が制限され、車載用半導体の供給が途絶したことが直接の原因となった。

初の日本勢被害、影響は北米にも拡大

今回の停止は、日系メーカーとして初の影響事例とされる。セラヤ工場は年間約19〜20万台を生産し、その大半を北米市場に輸出していた。主力車種の「HR-V」を中心に、米国・カナダ向けの供給体制が寸断されている。27日からは両国の工場でも減産措置が始まっており、北米の在庫調整に遅れが出る懸念がある。

半導体依存構造が企業経営を圧迫

ホンダは「稼働再開に向けて調整中」と説明しているが、見通しは立っていない。電動化の進展により、1台あたりの半導体使用量は急増しており、供給制約が経営に直結する状況だ。世界的な半導体不足は2021年以降断続的に続いており、今回の混乱はその再燃ともいえる。

サプライチェーン分断の長期化懸念

国際政治の緊張が続く中、サプライチェーンの分断が長期化する可能性が指摘されている。欧州諸国が安全保障上の理由から中国関連企業への監視を強化する一方、中国も自国製品の輸出管理を強めている。自動車業界では代替調達や生産拠点の再編を検討する動きが広がりつつある。

技術摩擦が企業戦略を左右する時代

半導体は「産業の血流」と呼ばれるほど重要な資源であり、その供給網が政治的要因で揺らぐと、企業活動全体が不安定化する。ホンダの生産停止は単なる一企業の問題ではなく、グローバル経済における技術摩擦の新たな警鐘となっている。経済安全保障の観点からも、今後の各国の政策対応が注目される。

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