生成AI音声の無断利用巡り津田健次郎さんが動画削除求め提訴へ

井村 智規
经过

声の模倣動画を巡る訴訟が表面化

人気声優の津田健次郎さんが、生成AIにより自身の声質を再現したとされる動画を巡り、TikTokの運営会社に削除を求めて東京地裁に提訴した。訴えは2025年11月に起こされ、これまで非公開の争点整理手続きが進められてきた。生成AIによる声の権利侵害を正面から争う訴訟として、法的な判断が注目されている。

問題となったのは、低音のナレーションを付けた雑学や都市伝説などの動画である。訴状によると、特定のアカウントには180本以上の動画が投稿されていた。津田さん側は、これらの音声が本人の声に高い類似性を持つとして、権利侵害を主張している。

180本超の投稿と収益化が争点に

投稿は2024年7月から2025年9月にかけて行われたとされる。動画の内容は、首や動物、都市伝説、雑学などを扱う短い映像で、声による印象づけが重要な要素になっていたと原告側はみている。TikTokには再生数に応じて金銭が支払われる仕組みがあり、訴状では月50万〜75万円の収益があったとされている。

津田さん側は当初、投稿者を特定するため、TikTok側に発信者情報の開示を求めた。東京地裁は権利侵害を認め、運営会社に接続記録の開示を命じた。しかし、プロバイダー側で記録保存期間が過ぎていたため、発信者の特定には至らなかった。この経緯を受け、動画そのものの削除を求める訴訟に進んだ。

類似性と混同の有無が主要論点

裁判の中心には、動画音声が津田さんの声と同一または類似しているかという点がある。原告側は、動画に付いた「ツダケンの声がする」といったコメントを立証材料としている。さらに、本人の声と投稿動画の音声に高い類似性があるとする音響分析の結果も提出している。

一方、被告側は、問題のナレーションは「普遍的な男性の声」であり、話し方も特別な特徴を持たないと反論している。投稿者が別のサイトで「友人の声だ」と説明していた点も主張に含めている。声は顔写真やサインと比べて客観的な比較が難しく、どの程度の近さを権利侵害と認めるかが問われる。

パブリシティー権の適用範囲を審理

津田さん側は、不正競争防止法違反とパブリシティー権侵害を訴えている。パブリシティー権は、著名人の氏名や肖像などが持つ顧客吸引力を本人が排他的に利用できるとする権利である。明文化された法律はないが、最高裁判決や政府の検討会では、声も保護対象になり得るとの見解が示されている。

原告側は、ありふれた動画内容を本人に似た声で差別化し、視聴者を引きつけていたと主張している。これに対し、被告側は、視聴者は動画の内容に関心を示しており、声そのものが誘引の中心ではないと反論している。裁判では、声の利用がどの程度まで商業的価値の利用に当たるかが判断される。

司法判断と今後の指針が焦点に

生成AIを使った声の無断利用は、声優や俳優など声を職業上の資産とする人々に大きな影響を及ぼす問題として受け止められている。声優の福山潤さんは、自身が演じたキャラクターを無断で歌わせる動画を見た経験を明かし、声を自分で制御できない怖さを語っている。声優有志は2024年から「NO MORE 無断生成AI」運動を展開している。

法務省は2026年4月、生成AIによる声の権利侵害を巡る民事上の責任について有識者検討会を発足させた。今夏にも、どのような場合に権利侵害と判断されるかの指針を示す予定である。今回の訴訟は、AI時代における声の法的保護を具体化するうえで重要な事例となる。

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